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小林 泰彦; 舟山 知夫; 和田 成一; 坂下 哲哉
宇宙生物科学, 18(3), p.186 - 187, 2004/11
銀河宇宙線のように、低フルエンス率の高LET重イオン(粒子線)による生物影響を明らかにするためには、マイクロビームを用いた細胞照射実験が有効な手段となる。そこで、原研・高崎研・バイオ技術研究室で開発した細胞局部照射装置を用いて、哺乳動物培養細胞を個別に重イオンで照射し、その影響を経時的に観察する実験システムを開発している。今回、照射前に試料を自動スキャンして細胞を検出するオフライン顕微鏡及び取得した座標データに従ってビーム位置に標的細胞を移動するオンライン顕微鏡の各々の試料ステージ更新し、従来は10m以上の誤差があった試料移動の位置再現精度が1mに向上したことにより、多数の標的細胞を次々に自動照準して連続的にシングルイオン照射することが可能になった。併せて、最近の細胞照射実験結果について報告する。
小林 泰彦; 木口 憲爾*
Isotope News, (593), p.9 - 12, 2003/09
イオンビームは、直進性や深度制御性が優れているため、生物組織中の特定の細胞や組織・器官を不活性化させて発生・分化過程や形態形成過程への影響を調べるなど、薬剤投与や外科的処置に代わる新しい解析プローブとして応用できる。今回は、カイコ幼虫への重イオン局部照射による微細外科手術(ラジオマイクロサージャリ)で造血器官や血球の生理機能の解析を試みた最近の研究成果を紹介し、ラジオマイクロサージャリ技術が従来の外科的な組織摘出法に代わる有効な生体機能の解析手段となることを示す。
小林 泰彦; 舟山 知夫
Isotope News, (590), p.2 - 7, 2003/06
マイクロビームによる局部照射は放射線の生物作用研究のための新しいツールとして極めて有望と考えられる。1個のイオン、特にネオンやアルゴンのような重イオンを1個、細胞に狙い撃ちして照射すると細胞がどうなるか。プロトンあるいはヘリウムイオンのような軽イオンの場合と異なり、重イオン1個のヒットで細胞は完全に不活化することが最近明らかになった。原研などで現在進行中であり、世界の各地でも計画が目白押しのマイクロビーム細胞照射実験について、その歴史と現状を概説するとともに、イオン1個のヒットが細胞に引き起こす現象について最近の成果を紹介する。
Tu, Z.; 小林 泰彦; 木口 憲爾*; 渡辺 宏
Nuclear Instruments and Methods in Physics Research B, 206, p.591 - 595, 2003/05
われわれは原研高崎研究所に設置された重イオン照射装置を用いて、カイコのような小動物へのラジオサージャリー技術を確立した。今回、ヘリウムイオン(He, 12.5MeV/u, 水中飛程約1.5mm),炭素イオン(C, 18.3MeV/u, 水中飛程約1.1mm)及びネオンイオン(Ne, 17.5MeV/u, 水中飛程約0.6mm)など飛程の異なる3種の重イオンを家蚕(着色非休眠系統pnd pS)の幼虫に全体照射あるいは局部照射し、その生物影響の違いを調べるとともに、イオンの照射深度による生物影響も調査した。全体照射では、3種のイオン間に照射効果が明らかに異なり、飛程の長いものほど影響が大きいこと、局部照射では、存在部位の異なる標的組織・器官によってその影響が異なることが明らかになった。炭素イオンを用いてマイラーフィルム(厚さ100m)で覆うことにより照射深度を制御した場合は、真皮細胞がイオンの飛程末端までのどの部分で照射されるかによって、その鱗毛形成に障害を起こす程度が大きく変化することがわかった。イオンの照射深度を制御することにより、精確に標的組織・器官のみの機能破壊が可能である。
Tu, Z.; 小林 泰彦; 木口 憲爾*; 渡辺 宏
Radiation and Environmental Biophysics, 41(3), p.231 - 234, 2002/08
被引用回数:5 パーセンタイル:16.72(Biology)カイコ幼虫への重イオンの全体照射では、線量に比例して、結繭率,蛹化率,羽化率及び繭の形質に影響が認められた。それに対して、局部照射では、全体照射と比較し、生存率などへの影響は少なく、照射部位に限定してその器官の欠失が観察された。次に、カイコ幼虫の造血器官を狙って局部照射し、体内の特定の器官の機能だけを選択的に破壊できるかどうかを調べたところ、照射後に血液中の血球密度の明らかな抑制が観察され、また造血器官の機能障害が認められた。さらにイオン照射後には血中から消失し、ほとんど検出できなくなる血液タンパク質成分を発見した。このタンパク質は血球の生理機能と何らかの関連があると予想される。したがって、重イオン局部照射を用いたラジオサージャリー技術で特定の細胞・組織だけを破壊することにより、カイコのような小動物の生体機能を解析することが可能である。
小林 泰彦
放射線生物研究, 37(1), p.67 - 84, 2002/03
マイクロビームによる局部照射は、放射線の生物作用研究のための新しいツールとして極めて有望である。原研・高崎研では、銀河宇宙線のような極低フルエンス高LET重粒子線の生物影響の解明、特にトラック構造の局所的エネルギー付与分布による影響をダイレクトに解析することを目指して、サイクロトロンから得られる比較的高エネルギーの重イオンを用いたマイクロビーム細胞照射実験系の開発に取り組んでおり、最近、ArイオンやNeイオンによるCHO-K1細胞の核への照射実験を開始した。マイクロビームによる細胞局部照射実験について、過去の数々の試みの歴史を紹介するとともに、特に粒子線マイクロビームを用いた最新の研究状況について述べる。
小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏; 山本 和生*; 山崎 修平*; Tu, Z. L.*; 金城 雄*; 木口 憲爾*
Proceedings of 11th International Congress of Radiation Research (ICRR-11), 2, p.182 - 186, 2000/00
生物に対するイオンビームの照射効果を詳細に解析するためには、従来のランダムな照射方法から脱却して細胞の特定部位に照準した局部照射による影響を明らかにする必要がある。また重イオンマイクロビームは特定の細胞への局部照射による細胞群の機能解析や胚原基マップ作成などの研究に応用できるほか、新しい細胞微細加工技術に発展する可能性を持っている。そのためわれわれは、アパーチャー系でコリメートした重イオンマイクロビームを大気中に取り出して顕微鏡観察下の生物試料に照射する装置を製作し、AVFサイクロトロンの垂直ビームラインに設置した。この生物用重イオンマイクロビームを用いて原研で進めている、カイコ発生初期卵に対する重イオン局部照射効果及びカイコ受精卵の発生過程の解析研究について概説する。
木口 憲爾*; 島 拓郎*; 金城 雄*; Tu, Z. L.*; 山崎 修平*; 小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏
JAERI-Review 99-025, TIARA Annual Report 1998, p.53 - 55, 1999/10
日本原子力研究所高崎研究所の細胞局部照射装置を用いてさまざまな生物の受精卵や胚子を重イオンで局部照射することによって、発生過程の解析が可能である。カイコは、その遺伝学的バックボーンや形態的・生理的な特徴から、この実験目的には理想的な材料の一つである。そこで、重イオン局部照射がカイコの初期発生過程に及ぼす影響を調べるために、受精直後の卵及び細胞性胞胚期卵に炭素イオンを局部照射し、照射された分裂核及び細胞の形態変化を観察したところ、照射を受けた分裂核は、その後分裂できずに肥大化し、その多くは正常に移動を続けて周辺細胞質に到達するが、一部は脱落して周囲の正常核と置換する場合があることがわかった。また受精直後卵を局部照射した場合は、発生した胚子には照射による影響が見られなかったのに対し、細胞性胞胚期卵への局部照射では、照射部位に対応した形態異常が胚子に誘導された。
Tu, Z. L.*; 白井 孝治*; 金勝 廉介*; 木口 憲爾*; 小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏
日本蚕糸学雑誌, 68(6), p.491 - 500, 1999/00
昆虫に適用可能な重イオンビームによるラジオサージャリ技術を確立する目的で、原研高崎研の深度制御種子照射装置を用いて家蚕幼虫の造血器官存在部位(翅原基付近)を局部照射または全体照射し、血球の計数、血漿蛋白質の分析、遊離アミノ酸の測定などにより重イオン局部照射の影響を解析した。重イオン全体照射蚕の血球数は雌雄とも5齢起蚕から4日目までほとんど増加せず、熟蚕になりやや回復した。血中のアミノ酸含量も対照蚕より減少した。SDS-PAGEでは、照射蚕の血漿中に特異的に増加する蛋白質のバンドが80kDa付近に認められた。一方、造血器官存在部位のみへの局部照射によっても全体照射と同様の影響が認められた。以上の結果から、造血器官存在部位への重イオン局部照射により、血球の機能解析が可能と考えられる。
Tu, Z. L.*; 山崎 修平*; 白井 孝治*; 金勝 廉介*; 木口 憲爾*; 小林 泰彦; 田口 光正; 渡辺 宏
日本蚕糸学雑誌, 68(6), p.443 - 453, 1999/00
重イオンビームの家蚕に及ぼす生物影響とその利用法を開発する目的で、家蚕の4・5齢幼虫に重イオンを全体あるいは局部照射し、その後の成長及び形態形成に及ぼす影響を調べた。Cイオン及びHeイオンの全体照射実験から、両イオンの照射効果はほぼ同様であり、4齢幼虫は5齢幼虫よりも感受性が高いこと、蛹化率及び羽化率は照射線量が増大するにつれて低下することがわかった。4齢催眠期幼虫及び熟蚕に局部照射した場合は、その後の生存に大きな影響は見られないが、照射部位に線量に応じて卵形成阻害や翅・鱗毛の欠失などの局部的な影響が誘導された。局部照射により熟蚕の組織・器官の重イオン感受性を調べたところ、生殖巣が最も感受性で(部分障害を誘導する表面線量=10~40Gy)、次いで外部生殖器、複眼、触角及び翅の原基等で高く(20~70Gy)、皮膚組織(150~175Gy)や神経系(500~900Gy)で低いことが明らかになった。これらの結果から、重イオンの局部照射によってラジオサージャリが可能であり、各種の生体機能解析研究に有用であることが示唆された。
田中 隆一; 神谷 富裕; 小林 泰彦; 渡辺 宏
応用物理, 65(2), p.168 - 172, 1996/00
高エネルギーの重イオンは物質や生体に局部的に大きな損傷を与えるが、生物細胞、半導体素子等の場合、個々の粒子が起こす事象は、微細な内部構造をもつそれらの部位に粒子がヒットしたかによって著しく異なる。こうした局部的な照射あるいはヒットによる効果を解明するための基盤技術として、1mの照射精度で重イオンのシングルイオンヒットを可能にするシングルイオン検出・制御などの技術を開発しつつある。また、サイクロトロンからの高いエネルギーの重イオンによる細胞局部照射技術も進めつつある。これらの研究の現状を紹介するとともに、軌道に乗りつつある放射線高度利用研究の概要も述べる。
上田 大介*; 舟山 知夫; 横田 裕一郎; 鈴木 芳代; 坂下 哲哉; 小林 泰彦; 白井 孝司*
no journal, ,
DNA損傷修復過程における細胞周期停止は、照射でDNA上に生成した損傷の量と重篤度に依存すると考えられているが、その詳細なメカニズムにはまだ不明な点がある。カイコ初期発生卵全体を炭素イオンビームで照射すると、発生の停止が誘導され、その後2時間で核の分裂が再開される。この結果は、カイコ初期発生卵において、チェックポイント機構を介した細胞周期停止が誘導されていることを示唆している。一方、卵内の細胞核のおよそ10%を炭素イオンマイクロビームで照射したところ、発生の停止は誘導されなかった。この照射した卵では、分裂を停止した以上形態を示す細胞核が観察された。しかし、3040%の細胞核を照射した卵では、発生停止が誘導された。この結果は、カイコ初期発生卵における細胞周期停止が、照射を受けた細胞核の数に依存することを示唆している。